国府田宏行 講述 
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  夏の柚子はまだ緑濃く葉かげでひかえめに実を付けていますが、柚子は古来酒の深酔を解き、口の臭いを取るとして、その佳香を酒杯に落したり、肴に好んで用いています。
 
 
 旧暦の六月はもう真夏。農事をすべて終えたから「みなしづき」と呼んだとか、 暑さがはげしいので水分が滴り尽したために「水無月」と呼んだとか言われていますが、現在の六月は雨季。 上旬には梅雨に入って明けるのは七月の中旬が普通です。
 太平洋の高気圧が次第に発達し、日本列島に沿って気圧の谷が出来、この谷に不連続線や低気圧が発生、これが停滞前線となって長雨が続くのが梅雨です。梅雨は、アジアの季節風が発達する地帯だけに見られる現象なので、英語でもバイウと呼ぶそうですが、秋、稲穂が豊かにみのるための条件です。ただ、ときに、この気圧配置が狂うと、カラ梅雨になったり、一変して集中豪雨に襲われたりすることもあ
ります。
 
   
 
  旧暦五月二十三日は、中国では古くから『竹酔日』と呼ばれ、この日に竹を移植するとよく付くと言われている日です。この日は竹が酔っているので移植しても気が付かないからだとか。
 この季節、若竹が威勢良く伸びるときですし、水を好む竹のこと、梅雨どきはちょうどいい時期なのでしょう。
 淡竹(はちく)の青竹を、上下二つの節を付けて切り、上の節には少し枝を残しておき、その節に小さな穴をあけて、ここから清酒を入れて二日間ぐらい置きます。竹に含まれている糖分その他の成分がにじみ出て酒の味をよくし、しかも延命長寿をもたらすと言われています。

『竹瀝酒(ちくれきしゅ)』
 青竹の片方を斜めに切り、節を一つあけて酒をひと節分ぐらい入れ、火に掛けます。野外の場合は焚火の中に立てかけて燗をします。
 竹が焼けてくると、竹の脂やクロロフィル、ビタミンKなどが酒に溶け出して来ます。 これを「竹瀝(ちくれき)」と言い、古くから喘息の妙薬として知られていましたが、最近はガンの予防にも著効があると言われています。
 そのため、奈良の名刹、南都七大寺の一つである大安寺では、毎年一月二十三日と六月二十三日に「笹酒まつり」「竹供養」として、多くの善男善女にこの「竹瀝酒」を振舞っています。
 竹の産地の九州では、この酒を注ぐとき、「カッポ、カッポ」「ポッポ、ポッポ」と音を立てるところから『カッポ酒』と呼び、集会などではよく楽しむと言います。
 
   
   
 家庭で晩酌をするときも、酒亭で杯を傾けるときも、「刺身」は最高の肴と言っていいでしょう。
 料理人にとっても、前回お話した「吸い物」とともに「椀刺(わんさし)」と言って、これを客に出すのは最も重要な仕事で、 板場の長である板前さんがこれを担当するのが普通です。
 魚を切って並べてあるのに、なぜ、「刺身」というのか−不思議に思っている方がいらっしゃるかも知れません。
 これは昔、客が何の魚の刺身かわからないことがあるので、板前がその魚の鰭(ヒレ)を刺身に刺しておいたところから出来た言葉で、 以前は「差身」とも書いていました。
 あの盛り付けられた刺身を見て、あなたは何かを連想なさいませんか? そうです。「山水画」です。
 盛り付けにはいろいろな流儀があるようですが、最も一般的なのが山水画をイメージしたもので、遠い山脈から、中景、近景、そして木々の緑あり、渓流あり、ときには雪景色ありーと、そんな自然の風景を想像しながらいただくのも一興です。
 ちょっと注意して見て下さい。刺身は奇数に盛られていますが、これも大切なきまりごとです。 いただくときは、手前から。そして、味のうすい白身などから箸を付けます。
 刺身は、ワサビを付けないと味がしまりませんが、このワサビを醤油に溶くと香りがなくなってしまいます。刺身の上にのせて、ワサビを刺身ではさむようにして醤油を付けます。このとき、口に運ぶ間に醤油が垂れる心配がありますからお手塩(おてしょ=醤油皿)は口元まで持っていっていただきましょう。口を刺身の方へ持って行くのは無作法で下品です。
 「妻」も大事な脇役です。穂紫蘇(ほじそ)は醤油皿に入れて刺身といっしょに香りを楽しむもの。 この穂は、太いほうを持って、箸ではさんでしごいても取れません。細い先のほうを持ってしごけば簡単にはずせます。
 大根などを細切りにした「けん」は、はさんで醤油に付けると、醤油を付け過ぎてしまいがちです。 醤油皿に箸先をちょっと付けて「けん」に2、3回落すとちょうどいい味になります。
 よく「刺身」だけを食べて「妻」には全然手を付けない人がいますが、「妻」も料理の一部です。 栄養のバランスの上からも全部食べて、美しく食べ終わりましょう。
 こういう刺身を肴にするときは、酒は辛口がよろしいでしょう。お互いが味を押し付けず、それでいて辛口は辛口のよさ、 刺身は刺身の味が生きて、酒の趣はさらに盛り上がると思います。
 
 
   
   
  『鮎(アユ)』
 青葉若葉の候になると、若鮎が最高に美味しくなります。初夏の味覚の王様です。 鮎は香魚とも言われ、川底の石に付いている水苔を食べているので天然ものにはこの香りがあります。 塩焼きが最高ですが、背越しもよし、琵琶湖あたりの子鮎は天ぷらが最高です。
 淡白な魚なので栄養的には期待できないと思われがちですが、高血圧症や心疾患など生活習慣病にもよいと言われています。
 
     
『鱸(スズキ)』
 夏の魚と言えば忘れてはならないのがスズキです。 ブリと同じくこれも出世魚で、東京では25cmぐらいまでのものをセイゴ、50cmぐらいのものをフツコ、それ以上のものをスズキと呼んでいます。
 セイゴは松江のものが最上と言われ、別名「松江」と呼ばれているくらいです。古書に「その身白くて、すすぎたるやうに清げなる魚なり」とあるところから、 スズキになったとか、この魚は真っ直ぐ泳ぐので「進(す)く進く」という説もあります。(『大言海』)
 綺麗なさっぱりした味わいは刺身として初夏にふさわしい味ですが、シコシコしているので、薄造りにして辛子酢味噌かポン酢醤油もよく、 酒を一滴かけて塩焼きしても風味があります。
 この魚は腎臓のはたらきをよくし、利尿効果があり、妊婦の場合、胎児の発育をよくし、流産を予防すると言われていますから、 酒の飲めない奥さんには積極的にすすめていただきたいものです。
 
     
『鯵(アジ)』
 一年中見られる魚ですが、今が旬で、脂が乗っています。刺身、たたき、塩焼き、酢のもの、南蛮漬けと、どんな料理でも酒とよく合います。
 アジという名前は文字通り「味がよい」ところからきたそうです。最近は大衆魚から高級魚の仲間入りをしてしまいましたが、ごぞんじのようにアジにはEPA(エイコサペンタエン酸)という多価不飽和脂肪酸が豊富なので、血栓症の予防に、酒席にはたびたび登場させたいものです。
 
     
『石鰈(イシガレイ)』
 「左ヒラメに右カレイ」という言葉はよくごぞんじと思いますが、尻尾を手前に、頭を向こうにして、背ビレを上に立て、 目が二つとも左側にあるのがヒラメで、右側にあるのがカレイというわけです。例外もありますが。
 カレイは種類が多いですが、イシガレイとマコガレイが味の代表格で、これからが旬。
 イシガレイは、右の背に石のようなかたまりがあるのが目じるし。刺身か、薄造りにしてポン酢でやるのが最適ですが、 切身にして甘辛に煮付けてもいい肴になります。
 因みに、大分県の別府温泉の近くでとれる有名な「シロシタ(城下)ガレイ」はマコガレイの一種です。
 
     
『穴子(アナゴ)』
 海底の砂の中に穴をつくってすんでいるのでアナゴ。ウナギに姿かたちは似ていますが、味は淡白。産卵期を迎えた初夏からが漁期。
 すしダネはよく知られていますが、天ぷらによし、蒲燒、煮物いずれも肴として絶好です。
 
     
           
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