
昔、魏の文帝の臣下が、帝の命を受けて、薬の水を探しにある山奥へ行ったところ、そこで歳七百歳にもなるという仙人に出会いました。
この仙人は、七百年前、周の穆(ぼく)王に仕えていた慈童(じどう)で、何かのお咎(とが)めでこの山に流罪になって以来、王から下された枕の要文を菊の 葉にうつして、その露を吸っていたら、いつの間にかこんなに生き永らえたといいます。慈童自身も自分の長生きに驚いて、その寿を文帝にも捧げたそうです。
これは《太平記》巻十三“竜馬進泰の事”に出ている話で、「菊慈童」(観世流以外は「枕慈童」)という題名の謡曲となって知られています。 この故事から、菊の花を浮かべた酒は不老長寿のめでたい酒と言われています。
九月九日は重陽の節句。中国では古来、奇数を陽の数とし、陽の極数である九が重なるめでたい日とされ、旧暦なので菊の季節でもあることから菊の節句とも言いました。
この風習は平安時代にわが国に伝わり、宮廷の儀式に取り入れられ、江戸時代になって、五節句のなかでも最も公の行事となりました。
この日は、“もってのほか”など食用菊の花びらを二、三枚落として、この風情を再現したいものです。