菊水

おいしさに、カンづいていました。おいしさに、カンづいていました。

魚も野菜も“生”はおいしい。
とれたて、できたては、
それだけでちょっとうれしい。

けれど“生”は、儚い。
微生物、光、熱。
“生”にはたくさんの壁が立ちはだかる。

1972年「菊水ふなぐち」の発売にあたり、
私たち菊水酒造も悩まされました。

蔵だけで振舞われていたおいしい“生”の日本酒を、
全国のお客様に楽しんでいただくには?
当たり前のように瓶に詰めても、
“生”のおいしさを届けることは困難でした。

見つけた解決策は、缶でした。

遮光性が高く、紫外線を通さず
瓶と比べて劣化が進みにくい。
だから、“生”のおいしさを、長く楽しめる。

瓶に詰めるのが当たり前の業界で、
缶に詰める挑戦は、「非常識だ」とまで言われましたが、
現在は、日本をはじめ、
アメリカを中心にアジア・ヨーロッパなど
世界各国のお客さまに楽しんで頂いています。

おいしさにカンづいた私たち菊水酒造の、
「菊水ふなぐち」「菊水しぼりたて純米生原酒」を、
お楽しみください。

その缶には、責任感が詰まっていました。

発売から50年以上が経った今なお、缶入り日本酒市場を席巻し続ける菊水の生原酒。フレッシュなおいしさは日本酒をつくる誰もが認めるものでありながら、品質を保持することがとても難しく、蔵の外に流通させるのは非常識とされていました。その生原酒を缶入りにして新潟・新発田から日本全国、そして世界へと届け続けられる理由を探る中で見えてきたのは、この日本酒を守り、受け継ぐ一人ひとりの強い責任感でした。

カンづいてるエピソード

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缶入り生原酒をつくる人

どんな米でもいつもの「ふなぐち」に仕上げる。
それもまた、職人技です。

五十嵐雄太/ 生産部 / マネージャー

機械は手段。ふなぐちは、蔵人の五感で完成する。

「あの年は、いつものふなぐちとして仕上がるのか心配で眠れませんでした。」2023年。猛暑と少雨。新潟で収穫された米は、小さく、硬いものでした。「日本酒は、微生物の力を借りてできあがる飲みものです。だから正確に言うと同じ方法でつくっても同じ酒は2度とできません。」どんな米の状態からでも、いつものふなぐちを完成させる。高級酒のように最高の原材料で最高の味をつくることに日本酒づくりの技術に対する注目が集まりがちですが、ふなぐちのように通年販売する商品をいつもの味に仕上げる再現性の高さにもまた、蔵人(くらびと)の高い技術が必要なのです。

古来、日本酒は秋に実った米を使って冬の間に醸造し、春に新酒ができあがる、農閑期に手づくりするものでした。現代になり、一年中スーパーやコンビニで販売されるふなぐちのような商品は季節を問わず蔵が稼働するため、米の保管状態やその日の気温や湿度など、外的要因に影響を受けます。「ふなぐちの味には社内基準があります。酒を搾った段階で蔵人全員で利き酒をし、品質を確認した上で次の工程に送ります。」データによる数値も活用しますが、結局最後は蔵人の五感の力を通さなければ、ふなぐちのおいしさは完成しないのです。その完成されたおいしさをすべての人に届ける。その役目を担ったのが、缶でした。

カンづいてるエピソード

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缶入り生原酒の品質を守る人

紫外線からお酒を守る。
お客さまに「いつもの菊水」を
お届けするために。

玉木友理/ 研究開発部 / 生産研究室

おいしさを届ける、徹底した品質管理。

「お酒は紫外線が当たると、匂いや色が変化し、熟成が進みすぎてしまいます。」光によってお酒に含まれる物質が化学反応を起こし、お酒は不快な香りを発し、色は茶色くなってしまう。特に生のお酒はデリケート。菊水酒造が生原酒を缶に入れて送り出している理由がここにあります。「缶であれば紫外線を通しません。だから、いつもの菊水をお届けすることができるのです。」実はこの「いつもの菊水をお届けする」というフレーズ。菊水酒造の品質管理の方針でもあります。些細なことも見逃さず、チームで密にコミュニケーションをとりながら、製品の一つひとつに想いを込めて日々の品質管理に取り組んでいます。

「世の中の菌の多くはアルコールに弱いのですが、日本酒の世界で『火落(ひおち)菌』と呼ばれる乳酸菌の一種は、15〜20度のアルコールの中でも増殖する性質を持っています。」火落菌が増殖してしまったお酒は、白くなり、酸味を帯び、飲めたものではありません。菊水酒造では、菌を取り除く技術と徹底した品質管理により、生原酒を全国に常温で流通させることができています。缶に詰める前に菌を取り除いていますが、詰めた後にも研究室における検査で火落ち菌が検出されないことを確認してから出荷しています。紫外線や火落菌という敵に立ち向かう、品質管理にかける想いが、常温流通可能な缶入り生原酒「菊水ふなぐち」を生んだのです。

カンづいてるエピソード

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缶入り生原酒を考える人

常識を破ろうとしたのではない。
ただおいしい日本酒を飲んでもらうために選んだ容器だった。

宮尾俊輔/ 取締役 / 経営ソリューション室長

「菊水は潰れるぞ」そんな声を、まっすぐな想いが上回った。

ふなぐちが誕生する前、生原酒は蔵を訪れた人だけが飲める日本酒でした。「火入れ」と呼ばれる65〜68℃で行われる低温の加熱殺菌処理をしていない、酵素が生きたままのお酒だからこそ、フレッシュなおいしさを味わえる生原酒。蔵の見学などで生原酒を体験した人々の「こんなお酒が飲みたい」という声を受け、つくりたてのおいしさを届けることを考え抜いた結果、行き着いたのが缶でした。「とてもデリケートな生酒を菌の影響を受けないように容器に詰めることは、当時の技術では不可能というのが日本酒業界の常識でした。火落菌が入れば、その蔵の信用はなくなりますから、大きな賭けでもありました。」同業他社の中には「菊水は潰れるぞ」という声もあったと言います。

詰める工程にとどまらず、全工程において衛生管理を徹底。日本酒をつくる前、つくった後も管理が徹底されているからこそ成り立つ技術なのです。「機械の精度や効率は上がっていますが、基本的な考えは発売当初から変わっていません。」しかし発売を望む声に反して、当初は5年ほど売れない時期が続きました。「瓶詰めが常識の世の中で、缶入りという見た目に馴染みがないので手に取ってもらえませんでした。」飲んでもらえればわかる。そう考え、東京から新潟に近い場所に訪れるスキー客を狙って蔵王や湯沢で一大サンプリングを実施。東京の人にそのおいしさが知られることとなりました。そうして常温で店頭に長く置ける、飲みきりサイズの缶入り生原酒は、日本中のスーパーやコンビニ、さらには世界へと販売の輪を広げて行きました。

カンづいてるエピソード

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缶入り生原酒を届ける人

海外でも瓶詰めが常識だった
日本酒が、マンハッタンで缶のまま酌み交わされる日常になった。

齋藤健太/ 市場開発本部 / 海外営業担当

缶には、生原酒を常温のまま世界に届ける技術が詰まっている。

「なぜ日本酒なのに瓶に入っていないの?」アメリカで初めて缶入りの日本酒を提案した時の反応は日本と同じでした。日本酒の常識は、アメリカでもまだ「瓶詰め」だったのです。それでも、何も伝えないまま飲んでもらうと大きなリアクションが返ってくる。「缶に入っている理由を説明すると、納得してもらえます。」丁寧で地道な活動によって、菊水の缶入り日本酒が少しずつアメリカに広まっていき、会社全体の売上の15%程度を輸出が占め、そのうち9割がアメリカの売上となっています。「現地のレストランではお猪口を使わずにふなぐちの蓋を開けて、並々と注がれているお酒を缶のままグイッと飲むのがクールなんです。」

本来このサイズの缶には180ml入れるのが一般的。でもふなぐちはそこに並々と200ml入れることで空気に触れる面を限りなく小さくし、フレッシュな味わいを保つ工夫をしているのです。「マンハッタンで食事しようとふらっと居酒屋に入ると、隣の席の若い方が二人ともふなぐちを片手にトークが弾んでいる、という光景を何度も目にしています。5番街でも見かけました。」常温のまま生原酒を輸出できるのは、高い技術や管理があってこそ。今やアジア、オセアニア、そしてヨーロッパにも輸出されています。「海外の日本酒市場はまだまだ伸びしろがあります。中でも生原酒は海外でも評価が高いので、もっと世界中に届けたいですね。」

「ふなぐち」ってどんなお酒?

「ふなぐち」だから、商品名は「ふなぐち」。

日本酒づくりの工程で発酵を終えたもろみを清酒と酒粕に分離する機具を「酒槽(ふね)」と呼び、酒槽の口から流れ出る、加熱殺菌処理も割水もしていない生まれたての生原酒を「ふなぐち」と呼んでいました。だから商品名は「ふなぐち」。お酒単体で飲むことで、生原酒ならではのフレッシュでフルーティーな味わいを、より楽しむことができます。

おつまみもなしで、ふなぐちだけで楽しむことが多いです。生原酒の香りや奥深さを感じながら食後にゆっくりとした時間を過ごすことも多いです。缶のまま飲める手軽さは、仲間とワイワイ楽しむ時にも最適です。
お酒好きには濃いめのおつまみと一緒に楽しむのがオススメですが、試してもらいたいのはチョコレート。日本酒とチョコなんて、もう永遠に止まりません。

「しぼりたて」ってどんなお酒?

若手社員のアイデアから生まれた、
食事中に飲みたい日本酒。

菊水の若手メンバーを集めて次世代につなぐ新商品を開発するプロジェクトが立ち上がりました。その結果完成したのが、食事に合う缶入り日本酒。どちらかというと甘口の「菊水ふなぐち」は濃いめのおつまみか、お酒だけで楽しむ方が多かったですが、新たに生まれた「菊水しぼりたて純米生原酒」は食事中にお酒を飲む若い方にも、楽しんで頂けます。

「しぼりたて」を味覚センサーにかけて出たデータからは、いくつもの中華料理と相性がいいという結果に。研究室のメンバーで実際に試食したところ「確かに合う!」となりました。
「相性がいい」には、調和する、深まる、引き立たせる、まとまるという4つ基準を設けています。オススメはエビマヨですが、家庭でも日常的に楽しむ餃子や唐揚げ、味噌ラーメンにも相性がいいですよ。