大人の嗜み 第三回

檜と日本人。檜舞台と日本酒。

私たち日本人にとって、檜(ヒノキ)は木の中でも特別な存在かも知れません。
光沢のある木肌と柔らかい手触り、そして独特の良い香り…。
檜に憧れたり、粋を感じたりするのは、なぜなのでしょう?その理由を探ってみました。

日本人のDNAが求めている?

お風呂の中のお風呂と言えば、やっぱり檜風呂。お寿司屋さんのカウンターが、檜の一枚板だったりすると、それだけでいい気分になりませんか?日本酒を入れて飲む升にも、檜が使われていますね。最近では杉でできた升も増えているようですが、「やっぱり檜の升でなくちゃ」と言う方が少なくないようです。
檜は最高級の建築材としても古くから使用されてきました。有名なところでは、伊勢神宮が総檜造り。20年に一度、真新しい檜の神殿に建て替えることも知られています。生まれ変わることで、永遠の姿を表現していると言われています。外国では、ギリシャのパルテノン神殿などが耐久性のある石造りで永遠を表現しているのとは対極にありますね。それほど、日本人のDNAには檜への畏敬の念が刷り込まれている、ということでしょうか。

檜は、いわゆる「ブランド木」。

檜は日本と台湾にのみ生育する木です。
日本では福島県以南から九州まで分布していますが、上手に育てるのが難しいとされ、建築材などに使用できるものは、ごくわずか。
優れた性質を持つ檜の中でも選ばれし檜なのです。
昔から、檜をふんだんに使った家は「檜普請」と呼ばれ、贅沢な家の代名詞でした。

能舞台は檜の舞台。

日本人が檜に特別な思いを抱いているのは、「檜舞台」という言葉からもわかります。檜舞台とは、自らの腕前を披露する晴れの場所のこと。その語源は、能舞台にあります。 檜舞台とは、文字通り、檜を張った舞台のこと。劇場の舞台を見ると、古代ギリシャには平土間の舞台もありますが、ほとんどが木材でできています。中でも、日本の能舞台には、檜の厚板が張ってあります。能の所作の中で、演者が足を踏み鳴らすことが重要な表現となっていますが、その音を良く響かせるため、板は釘を使わず楔で留め、また、舞台の下の土間には、音を増幅されるため、大きな陶器のかめが埋めてあるそうです。

檜舞台に上がる、とは…。


写真協力「観世能楽堂」
檜は乾燥性が良く、狂いの少ない木材です。材質は柔らかく軽いですが、強度と耐朽性が高い優良材。もともと能舞台は屋外にあったので、檜のこうした特長ゆえに使われていて、舞台の材質として檜を超えるものはない、とまで言われています。 では、お金があれば、檜の舞台が作れるか、と言うと、必ずしもそうではありませんでした。江戸時代に檜の舞台が許されていたのは、能楽や歌舞伎など、幕府公認の劇場だけ。つまり、「檜舞台に上がる」のは、一流として認められることを意味していたのです。こうした経緯から、檜舞台は「自らの腕前を披露する晴れの舞台」の意味になったと言われています。